
- 人工呼吸管理における問題点は何ですか?
- 合併症とそれに伴う人工呼吸からの離脱(ウイニング)の遷延です。
人工呼吸は陽圧換気であること、人工気道を留置した換気であること、臥床を強いられることなど、すべて非生理的である事からくる合併症の発生が最大の問題点となります(「人工呼吸中の合併症」参照)。非生理的な陽圧換気下では、患者の呼吸筋を休ませ、酸素化や換気の改善が出来る反面、呼吸筋そのものの廃用性委縮を起こしたり、肺の換気と血流の不均衡による無気肺を生じたりと不利益な事も同時に起こります。また ARDSの様な急性呼吸不全患者の場合では、呼吸器そのものが肺に傷害を与える急性肺傷害(VILI)の予防に焦点をあてた呼吸管理方法(肺保護換気戦略;Open lung strategy;)も主流になっています(「人工呼吸中の合併症」参照)。この戦略の中でも自発呼吸を極力温存し、人工呼吸器による強制換気の要素を少なくした管理が行われる事が多くなりました。
- 自発呼吸は人工呼吸管理の妨げとなるのでむしろ抑制すべきでは?
- いいえ。人工呼吸からの早期離脱を目指す上で、バランスを保ちつつ可能な限り自発呼吸を温存することが望まれます。
- そもそも人工呼吸は呼吸不全に陥った肺の機能を補助するために行われるものであり、その目指すところは人工呼吸からの離脱、すなわち自発呼吸への完全な移行です。
人工呼吸管理のできるだけ早い段階から、できるだけ高い割合で患者の自発呼吸を維持させることは、侵襲性の指摘される人工呼吸期間を減少させる上で非常に重要な意味を持つといえるでしょう。
- 自発呼吸を温存することの利点は何ですか?
- 患者自身の生理的な呼吸をできる限り温存することで、人工呼吸管理によって生じる様々な問題を同時に改善することが期待されます。
- 人工呼吸器関連肺損傷は主に肺の過膨張や肺胞虚脱によって起こりますが、自発呼吸を温存することによりそのような状態を防ぐことが可能となります。
また、筋弛緩薬投与に伴う咳嗽反射の消失は喀痰排出を困難にするため人工呼吸器関連肺炎の原因ともなりますが、自発呼吸では反射が維持されます。
人工呼吸管理下では肺内の血流の多い領域(dependent lung)にあまり空気が送られず、血流の少ない部分に換気が集中してしまう現象が見られ、それによって換気血流比が悪化する傾向にあるのに対し、自発呼吸ではdependent lungに優先的に送気されるためより効率のよい換気が行われます。
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| 図1 自発呼吸と陽圧換気での換気血流分布 |
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Froese AB,et al.Effects of Anesthesia and Paralysis on Diaphragmatic Mechanics in Man. Anesthesiology 1974;41:242-255 |
- さらに人工呼吸器による陽圧換気は肺血流量を低下させる一因となりますが、自発呼吸では吸気時に胸腔内が陰圧になることで肺循環が補助されるため、広範囲により多くの血液を潅流させることが可能です。

- 自発呼吸を温存するために大切なことは何ですか?
- より生理的で快適な呼吸を患者に提供することです。
- 「自発呼吸温存療法」のように器械換気と自発呼吸とが共存した状態を部分的補助換気といい、患者の呼吸パターンと人工呼吸器との同調性がもっとも大きな課題となります。
- 人工呼吸器との非同調が続くと患者にとって苦しい状態となり、期待した効果が得られないばかりか、却って容態を悪化させてしまう危険もあります。
私たちの呼吸はたとえ健康安静時であっても絶えず変動しているといわれ、病的な状態ではこの変動幅がさらに広がるとされていますが、このような不規則な呼吸パターンを正確に捉えるには極めて高度な技術を要します。
近年では自発呼吸を温存した様々な換気モードが開発されており、二相性陽圧換気(BiPAP/BiLevel/APRV)や、気管チューブの抵抗を自動的に補正するTC(ATC)、患者の呼吸動態をリアルタイムで測定し換気にフィードバックする比例補助換気(PAV)等が臨床の場で使われています。
- 早期ウイニングに向けてどのような管理が必要ですか?
- 一定のウイニング基準に沿ってウイニングを進めることが有用です。
- 早まったウイニングでは呼吸筋疲労などに伴う呼吸状態の悪化により再挿管となる可能性もあります。再挿管された場合、死亡率や院内感染性肺炎の発生率が非常に高くなると報告されています。ウイニングの方法として、自発呼吸が可能であるかどうかの判定(SBT;自発呼吸トライアル)が臨床で良く使用されます。SBTに用いられる自発モードはCPAP/PSV、Tピース等ありますが、いずれも予後に差はありません。SBT開始前に短時間呼吸器を外し、ウイニング可能かどうかの判断をします。SBTに30-120分耐えられる患者の約80%がその後も永続的にウイニングできますが、最初の30分以内に呼吸筋疲労に伴う頻呼吸が起こるので、開始後数分間は注意深く観察し中止の判断をします。無駄にSBTを続けることは呼吸筋に負担をかけることにもなります。この方法を1日1回行うことによって、自発呼吸に耐えられるかを最短で知ることができます。また、気道確保の必要がなければNPPV(非侵襲的人工呼吸)によって侵襲的な人工呼吸管理を回避するなどもあります。離脱開始の基準は満たしているが、SBTを行うと呼吸状態が悪化し、繰り返し呼吸器を再装着しなければならないような場合、NPPVが効果を発揮する場合があります。ウイニングにあたっては、当然ながら原疾患の改善が前提にあって、どのようにウイニングを行うかではなくて、いつウイニングが安全に行えるかが重要となります。
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