VAPの原因となるサイレントアスピレーション(不顕性誤嚥)の予防
人工呼吸器関連肺炎の発生には様々な要因が関連していますが、そのうち誤嚥を予防するための「気管チューブの管理」を中心に解説します。
- 人工呼吸器関連肺炎(以下VAP)の主因といわれているサイレントアスピレーション(不顕性誤嚥)を予防する方法は何ですか?
- カフとは気管チューブや気管切開チューブ先端部分についている風船状のもので、パイロットバルーンと呼ばれる部分からエアーを注入して膨らませます。
カフの役割は人工呼吸中のガスリークの防止と誤嚥の防止です。気道内に留置した気管チューブのカフを膨らませることにより、気道とチューブの隙間を少なくし換気量を確保し誤嚥を予防します。しかし、カフを膨らませすぎると気管粘膜障害を起こし、逆にカフの膨らみが足りないと、誤嚥の危険性が高くなりますので適切なカフ圧管理が大切です。
カフには様々な大きさや形状があり、研究では大容量低圧カフが最もサイレントアスピレーションを起こしにくいと報告されていますが、この大容量低圧カフを用いて適切なカフ圧管理をしても誤嚥を完全に防ぐことはできません。したがってカフ上部吸引を行うことが重要です。 
気管チューブの管理
- カフ圧管理はどうすればいいのですか?
- カフ圧は20cmH2O以上30cmH2O以下で管理することが推奨されています。
その理由は、30cmH2Oを超えるカフ圧は気管粘膜の血流を阻害するといわれ、一方、20cmH2O以下の低圧ではVAPのリスクが高くなるという報告があるからです。 
- カフ圧を調節する際にはカフ圧計を用います。なぜならカフに注入する空気の量は、気道の形状やカフの大きさにより異なってくるからです。またカフ圧は時間経過などにより低下することから、定期的に確認します。そのタイミングに明確な基準はありませんが、口腔ケア前後や気管内吸引、体位変換などのベッドサイドでのケアとあわせて実施されていることが多いです。
- カフ上部吸引とは何ですか?
- カフの上に貯留した分泌物を吸引することです。

- 図3のようにカフ上部にたまった分泌物は、時間とともに気管壁とカフの隙間から下気道に少しずつ垂れ込んでしまうので、落ち込む前に吸引する必要があります。
口腔や鼻腔からの吸引は解剖学的に困難で、無理にすると迷走神経を刺激して徐脈や不整脈など循環系への影響が懸念され危険です。カフ上部吸引によるVAP予防効果については、研究によると非吸引群に対し、カフ上部吸引群のVAP発生率は有意に減少すると報告されています。 -


Kees Smulders et al:A Randomized Clinical Trial of Intermittent Subglottic Secretion Drainage in Patients
Receiving Mechanical Ventilation.CHEST 121:858-862,2002
- カフ上部吸引はどのようにすればいいですか?
- 分泌物の吸引には、気管チューブに付属した専用ポートからの吸引を推奨しています。
方法についての明確なエビデンスはありませんが、文献によると、シリンジで行う方法と低圧吸引器を用いる方法があります。シリンジの場合、5~10mlのシリンジで頻繁にゆっくりと吸引します。
低圧吸引器を使用する場合は、100-150mmHg以下の圧で10秒位吸引し、20秒休止するなど頻繁な間歇吸引が推奨されています。吸引圧については一般的に気管内吸引時の圧も150mmHg以下と言われており、それを超える過剰圧でのカフ上部吸引は粘膜損傷や肉芽形成の危険性があります。
カフ上部吸引のタイミングは、口腔ケアや気管内吸引を行う際にカフ上部の分泌物を下気道に落とさないようにするため、カフ上部吸引を行ってから実施するのが望ましいです。
その他 誤嚥とVAPの予防法
- 誤嚥予防に適した体位はありますか
- 仰臥位は誤嚥のリスクが高く、いくつかのガイドラインでも30~45°のヘッドアップを推奨しています。
特に経腸栄養をしている患者さんは誤嚥のリスクが高く、ヘッドアップすることは有効です。ヘッドアップする際には患者さんの安静度やバイタルサインに注意しながら実施しましょう。
- カフ管理以外にVAPを予防する方法はありますか?
- もう一つの細菌の侵入経路である吸入(inhalation)を予防することが大切です。
気管チューブから細菌を直接下気道に吸入させてしまうことを予防するには、気管内吸引や、加温加湿器・ネブライザー、人工呼吸器回路の取扱い時の徹底した清潔操作が重要です。閉鎖式気管内吸引やフィルター付き人工鼻の使用によるVAP予防に関する明確なエビデンスはありませんが、交差感染を予防する上で、選択することは意義があると思われます。
また、口腔ケアも大切です。気管チューブが留置されていると、絶食や薬剤などにより唾液の分泌が低下し自浄作用が低下していること、口腔内の乾燥により細菌が増殖しやすい環境であるからです。
VAPの発生原因は多岐にわたるため、何か一つ行えば予防できるものではありません。発生機序やリスクファクター、細菌の侵入経路を理解し、患者さんを総合的に捉えたケアが必要となります。 

