コヴィディエン アカデミア

人工呼吸関連肺炎;VAP

1. VAPの定義

人工呼吸器関連肺炎は人工呼吸管理中に発生する院内感染の1つです。
英語では「Ventilator Associated Pneumonia」と表記され、一般的にはその頭文字をとりVAPと略語で表されます。
人工呼吸器関連肺炎(以下VAP)は、人工呼吸管理開始前には肺炎がないことが条件となり、気管挿管による人工呼吸開始48時間以降に発症する肺炎と定義され、発症時期により大きく2つに分類されます。
気管挿管4日以内に発症した肺炎をEarly-onset VAP(早期VAP)、気管挿管5日以降に発症した肺炎をLate-onset VAP(晩期VAP)と分類します1) (図1)。

図1. VAP(人工呼吸器関連肺炎)とは?

早期VAPは肺炎球菌、インフルエンザ菌、MSSAなど抗生物質感受性菌が起炎菌であることが多いのですが、晩期VAPは、緑膿菌、アシネトバクター、MRSAなど抗生物質耐性菌であることが多い1)ため、治療や管理を更に難渋させます。

2. VAPの疫学

JANIS:Japan Nosocomial Infections Surveillance (厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業)2) によると、2011年の集中治療室におけるVAPの発生率は人工呼吸日数1, 000日につき1.7例となっており、尿路感染症やカテーテル関連血流感染症と比べ若干高いのが現状です。また、NHSN:National Healthcare Safety Network(全米医療安全ネットワーク)3)での2011年の統計では、熱傷、外傷、神経疾患症例でVAPの発生率が高い傾向にあります。
VAPの発症の危険因子には熱傷や外傷、中枢神経系疾患による入院、胸腹部手術、意識障害、年齢70歳以上、基礎疾患として慢性肺疾患を有する、などがあげられており4) 、このような症例では特に注意が必要です。また、人工呼吸管理1日毎に1%ずつ増加する5)ともいわれており、早期離脱への取り組みが重要となります。
VAP発症症例ではICU滞在期間や入院期間の延長、死亡率の上昇、医療コストの増大6) も指摘されており、サーベイランスを行い各種バンドルやガイドラインを参考に各施設での対策がとられています。

3. VAPの原因

VAPは、人工気道を留置することにより下気道に菌が侵入し発症すると考えられています。気道は本来単なる空気の通り道ではなく、外部から侵入してくる埃や細菌、ウイルスなどの異物を下気道へ侵入させないためのフィルタ機能やクリアランス機能、吸い込む空気に湿度を与える加温加湿機能を持っています。しかし人工呼吸器が装着される患者のほとんどのケースは、そこに気管チューブや気管切開チューブなどの人工気道が留置されるため、これらの機能がバイパスされ、その結果、上気道の細菌がカフと気道壁の間から(内因性)あるいは人工気道から直接下気道へ菌が侵入(外因性)し、生体の防御機能が低下した状況下でVAPを発症します1)(図2)。

図2. VAPの発症機序

■ 外因性

本来清潔であるはずの人工呼吸器のデバイスの回路の着脱などによる細菌汚染により、直接人工気道を介して細菌が侵入する感染経路です。回路汚染の原因として、加温加湿器の水やネブライザの薬液などを扱う際の不潔な操作や、気管吸引や回路交換などで気管を開放した際の回路内の細菌汚染がVAPを引き起こすと指摘されています。

■ 内因性

口腔内や中咽頭部の分泌物が下気道へ侵入する感染経路です。気管挿管時は口腔内で細菌が繁殖しやすい状況です。その原因として、自浄作用のある唾液の分泌が経口摂取していないために抑制されるうえにオーラルケアが十分に実施できないこと、消化管潰瘍を予防する薬剤や早期の経腸栄養により胃液がアルカリ化し消化管で繁殖した細菌がチューブを伝って逆行性に口腔内へ移動すること、また経鼻的なチューブ管理により副鼻腔炎を合併しやすいことなどがあげられます。
以上の原因から、繁殖した細菌などが分泌物とともに気管チューブのカフ周囲から下気道へ侵入することが指摘されており、VAPの主因といわれています。したがってVAP予防には不顕性誤嚥の経路を断つことが重要であると考えられています。
人工気道の多くはエアリークや誤嚥を防ぐためにカフがありますが、カフ上部に貯留した分泌物の垂れ込みを完全に防ぐことはできません。カフは気管の構造に沿ってしわが発生し、分泌物が気管壁の隙間から少しずつ下気道に垂れ込み、肺炎を引き起こすと指摘されています。そのため、カフの形状をテーパー型にすることによりしわをなくすポイントを作ることで、カフ上部からの垂れ込みを減少させるチューブも販売されています(図3)。

図3

4. VAPの予防

■ カフ圧管理

カフ圧は30cmH2Oを超えると気管粘膜の血流を阻害する7)といわれ、一方、20cmH2O以下の低圧ではVAPのリスクが高くなるという報告8)があり、現在は20cmH2O以上30cmH2O以下で管理することが推奨されています。

カフ圧を調節する際にはカフ圧計を用います。カフに注入する空気の量が一定でも、気道の形状やカフの大きさによりカフ圧は大きく異なります。更にカフ圧は時間経過やケアなどにより低下することが指摘されており、定期的にカフ圧を確認することも重要です。タイミングに明確な基準はありませんが、口腔ケア前後や気管内吸引、体位変換などのベッドサイドでのケアとあわせて実施されている施設が多いようです。

最近では自動カフ圧計を使用することで誤嚥を防ぎVAPが低減できたという報告9)もあり、カフ圧の変動とカフ圧管理の重要性が示されています(写真1、図4)。

写真1 自動カフ圧コントローラ 図4 連続的カフ圧管理の有用性

■ カフ上部吸引

カフ上部吸引とは、カフの上に貯留した分泌物を吸引することです。カフ上部にたまった分泌物は、時間とともに気管壁とカフの隙間から下気道に少しずつ垂れ込んでしまうので、垂れ込む前に吸引する必要があります。

カフ上部吸引によるVAP予防効果については、非吸引群に対し、カフ上部吸引群のVAP発生率は有意に減少すると報告10)されておりますが、口腔や鼻腔からの吸引は解剖学的に困難で、無理に実施すると迷走神経を刺激して徐脈や不整脈など循環系への影響が懸念され危険ですので、気管チューブや気管切開チューブに付属した専用ポートから吸引します。

方法についての明確なエビデンスはありませんが、シリンジで行う方法と低圧吸引器を用いる方法10)があります。シリンジの場合、5~10mLのシリンジで頻繁にゆっくりと吸引します。低圧吸引器を使用する場合は、100~150mmHg以下の圧で10秒位吸引し、20秒休止するなど頻繁な間歇吸引が推奨されています。吸引圧については一般的に気管内吸引時の圧も150mmHg以下といわれており、それを超える過剰圧でのカフ上部吸引は粘膜損傷や肉芽形成の危険性があるため注意が必要11)です。

口腔ケアや気管内吸引を行う際にカフ上部の分泌物を下気道に落とさないようにするため、カフ上部吸引を行ってから口腔ケアや気管内吸引を実施するのが望ましいとされています。

5. VAPサーベイランス

サーベイランスは院内の状況を調査し、結果を改善することができる人々に必要な情報を提供することを目的として実施されます。ICT:Infection Control Team(感染管理チーム)を設け、サーベイランスを実施し対策をとられている施設も少なくないことと思います。各施設に合ったサーベイランスと実施できる対策を立案実施することが重要です。

新しいトピックスを最後にご紹介いたします。
2013年1月、NHSNよりVAPサーベイランスが公表12) されました。新しい判定アルゴリズムでは、(1)18歳以上、(2)気管挿管し人工呼吸器管理を3日以上実施、(3)急性期病院、リハビリ病院で人工呼吸管理を実施している症例が対象となり、除外基準は、蘇生のために人工呼吸管理を実施している症例(HFOやECMO、腹臥位での呼吸管理)とされています。この基準を満たした症例はVAE:Ventilator Associated Events(人工呼吸関連事象 )サーベイランス アルゴリズムを使用することになりました。 ここでは人工呼吸管理が安定化した『基準時期』のあと2日以上にわたり (1)PEEPを3cmH2O以上増加、(2)FIO2の設定を≧20%以上増加したものをVAC:Ventilator Association Condition(人工呼吸器関連状態)とし、感染所見を認める症例をIVAC:Infection-related Ventilator Associated Complication(感染関連性人工呼吸器関連合併症)としています。そして、人工呼吸管理開始後3日以上で酸素化能の悪化を認め培養にて菌の検出を認めたものをPossible VAPもしくはProbable VAPに分類されます。

詳細はNHSNのwebサイトをご確認ください12)


引用・参考文献
1. 相馬一亥. オーバービュー-定義と疫学、危険因子. 人工呼吸器関連肺炎のすべて 2010.2-8.
2. http://www.nih-janis.jp/
3. http://www.cdc.gov/nhsn/PDFs/dataStat/NHSN-Report-2011-Data-Summary.pdf
4. Healthcare Infection Control Practices Advisory C, Centers for Disease C, Prevention. Guidelines for preventing health-care-associated pneumonia, 2003 recommendations of the CDC and the Healthcare Infection Control Practices Advisory Committee. Respiratory care 2004;49(8):926-939.
5. Fagon JY, et al. Nosocomial pneumonia in patients receiving continuous mechanical ventilation. Prospective analysis of 52 episodes with use of a protected specimen brush and quantitative culture techniques. The American review of respiratory disease 1989;139(4):877-884.
6. Muscedere J, et al. Subglottic secretion drainage for the prevention of ventilator-associated pneumonia: a systematic review and meta-analysis. Critical care medicine 2011;39(8):1985-1991.
7. Seegobin RD, van Hasselt GL. Endotracheal cuff pressure and tracheal mucosal blood flow: endoscopic study of effects of four large volume cuffs. British medical journal 1984;288(6422):965-968.
8. American Thoracic S, Infectious Diseases Society of A. Guidelines for the management of adults with hospital-acquired, ventilator-associated, and healthcare-associated pneumonia. Am J Respir Crit Care Med 2005;171(4):388-416.
9. Nseir S, et al. Continuous control of tracheal cuff pressure and microaspiration of gastric contents in critically ill patients. Am J Respir Crit Care Med 2011;184(9):1041-1047.
10. Leasure AR, et al. Prevention of ventilator-associated pneumonia through aspiration of subglottic secretions: a systematic review and meta-analysis. Dimensions of critical care nursing : DCCN 2012;31(2):102-117.
11. 蒲池正顕,他. 【短報】気管挿管後に喉頭肉芽腫を発症した2症例 麻酔.2009; 58.1282-85
12. http://www.cdc.gov/nhsn/acute-care-hospital/vap/

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